セールスイネーブルメントとは?注目の背景や取り組むメリットを解説

大手企業だけではなく、中小・ベンチャー企業でも活用事例が増えている「セールスイネーブルメント」。

セールスイネーブルメントに取り組むと、営業チーム全体が「売れる営業」として活躍し、成果を生み出す効果が期待できます。営業成果の伸び悩みや人材育成に悩まれている企業にとっては、注目すべき手法です。

今回はセールスイネーブルメントとは何か、注目される背景やメリット、成功事例についてご紹介します。取り組みの手順や注意点、成功へ導くコツについても解説しているので、ぜひ合わせてご覧ください。

セールスイネーブルメントとは

セールスイネーブルメントとは、ITツールを活用した「営業組織を強化・改善するための取り組み」を指します。

セールスイネーブルメントではITツール内に蓄積したデータを分析し、その結果をもとに営業プロセス・人材育成などの要素を改善、仕組み化していきます。

そしてその目的は「営業スタッフ全員が高い成果を上げられるようになること」と定義されています。

そんなセールスイネーブルメントの主な要素は、次の4つです。

ナレッジの共有

セールスイネーブルメントではITツールでナレッジを一元管理することで、各営業担当がスムーズに活動できるようになります。

営業資料や動画、知識・ノウハウといった「ナレッジ」は、営業活動において大きな武器となります。しかし、営業組織では提供資料の共有がうまくいかず埋もれてしまっていたり、一部スタッフのみが独自のノウハウを持っていたりするケースも多く見られます。

営業活動におけるナレッジを「共通のツール」内に蓄積し全員で共有できれば、効率よく営業活動が進められます。また優秀なスタッフのノウハウを可視化し、営業の仕組みとして全員に取り入れれば、より多くの成果を生み出すことにもつながるでしょう。

プロセスの標準化

セールスイネーブルメントの取り組みにより営業活動のプロセスを標準化・可視化することで、「今は誰が何をやっていて、どんなプロセスにあるのか」が明確になります。

目標に対し、担当者ごとに裁量をもって活動できる営業職においては、営業のプロセスが見なくなることで属人化してしまうケースがよく発生します。

しかしセールスイネーブルメントで共通のプロセスを使い、かつ各担当者の営業活動の進捗が見えるようになれば、営業担当者は「自分が今すべき行動」がおのずと分かるようになりますし、管理者は案件単位、担当者単位での進捗状況を管理しやすくなります。そうなればチーム全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。

実務に即した効率的な育成

セールスイネーブルメントでは「実務に即した形で効率的な人材育成を行うこと」が重要とされています。

ITツールに蓄積したデータやナレッジから育成課題を抽出すると、実務に即した具体的な指導やアドバイスができるようになります。的確な指導・アドバイスを行えば、営業担当者を「即戦力」として早期成長させることも可能です。

またSFAツールを使えば、指導時の対応や内容も記録できます。蓄積した指導データを分析し効果検証をすれば、指導や育成プログラムの改善、更なる効率的な育成に繋げられます。

営業スキルの定義・定量化

セールスイネーブルメントでは営業プロセスに必要なスキルを定め、数字などで定量化していきます。

スキルを定量化することで「今どんなスキルが足りないのか」「何をすれば能力が伸ばせるか」がより具体化されるため、能力向上に向けた施策を決定しやすくなります。

セールスイネーブルメントが注目される背景

欧米では約6割の企業がセールスイネーブルメントを実践しており、未導入企業に比べて予算達成率アップ、営業受注率アップなどの成果を獲得しています。

さらに近年は、日本でもセールスイネーブルメントに注目し、導入・実践を進める企業が増えつつあります。

大手はもちろんですが、中小・ベンチャーでもセールスイネーブルメントに注目する企業は少なくありません。その背景には、今の時代ならではの多くの要素が絡んでいます。

  • 顧客ニーズの細分化による営業手法の高度化、複雑化
  • 労働生産人口の減少
  • 商品・サービスの提供スピードの変化
  • ユーザーの購買行動の変化

それぞれを具体的に見ていきましょう。

顧客ニーズの細分化による営業手法の高度化、複雑化

近年ではセールスマーケティング領域において、ITツール(CRMやSFA、MAなど)を使った“効率よく質の良いリード獲得の仕組み”が整備されつつあります。

これは元をたどると「顧客ニーズの細分化」が原因として存在しています。

仮に営業スタッフが潜在顧客の細かなニーズを把握しないまま、それぞれのスキルや経験に依存した営業を行ったとしましょう。そうなるとどうしても追い漏れ・取りこぼしが生じてしまい、優秀なスタッフとそれ以外のスタッフで成果にばらつきが出てしまいます。

このような成果のばらつきを解消するのが「営業活動の仕組み化」、つまりセールスイネーブルメントです。

労働生産人口の減少

セールスイネーブルメントが注目される背景には、働き手となる「労働生産人口の減少」も挙げられるでしょう。将来的な人手不足を免れない分、セールスイネーブルメントに取り組み、“より効率的に成果を出し続ける仕組み”そのものを構築することが重要になってきます。

商品・サービスの提供スピードの変化

そのほかの要素としては、新商品やサービスにおける提供スピードの変化が年々早くなっていること、ユーザーの購買に至るまでの行動が昔と大きく変化していることなどが挙げられます。

近年では商品の流行り廃りや開発スピードが速く、次々に新たな商品・サービスが提供されています。そのため、営業マン自身も各商品・サービスの強みや特徴の理解が追い付かないケースがあるのです。

セールスイネーブルメントによって商品・サービスの情報資料を共有することで、全営業スタッフが同じ理解度で商談に臨めるようになり、成果向上につながります。

ユーザーの購買行動の変化

商談ではユーザーのニーズを深掘りして的確に把握し提案することが重要です。

しかし近年は、オンライン商談の普及やユーザー自身がネットで商品を比較をし、購入の意思決定をするケースが多くなっています。

そのような状況では、「時間をかけて準備している間に競合に顧客を取られてしまった」といった自体にもなりかねません。

よって現代では、「ニーズに応えられる商品・サービス」をスピーディに提案する、という営業スタイルがベターです。

セールスイネーブルメントへ取り組み、準備段階で蓄積データを活用すれば、どの営業担当者でもユーザーニーズを的確かつスピーディに捉えられます。結果として効率的に商談の提案準備ができ、顧客へのすばやいアプローチが実現するのです。

セールスイネーブルメントのメリット

セールスイネーブルメントの概要や注目される背景について解説してきましたが、実践する事でどのようなメリットがあるのでしょうか?

改めて、セールスイネーブルメントのメリットを整理してみましょう。

営業活動の生産性と成果の向上

セールスイネーブルメントにより営業活動を仕組み化・最適化すると、営業プロセスの改善やチーム全体の営業スキルの向上が期待できます。

たとえば営業プロセスのムダを見直して「契約に結び付きやすい営業プロセス」を標準化・平準化できれば、チーム全体の業務効率は向上します。

また優秀な営業スタッフのノウハウ・知識などのナレッジを共有し、「仕組み」として全スタッフが使えるようになれば、個々の営業スキルの底上げにもつながります。

このようなセールスイネーブルメントの取り組みを行えば、中長期的に多くの成果を獲得することも可能です。

人材育成を仕組み化できる

営業部門の人材育成は、OJT(On the Job Training)や外部講師による集合研修などで行われるケースが多く見られます。

しかし、「担当者によって指導レベルがまちまちで育成結果にばらつきが出る」「外部講師の集合研修を受けても、いざ現場に出ると学んだ内容の再現性が低く、意味をなさない」といったケースも少なくありません。

また中小・ベンチャー企業においては、外部講師・コンサルを入れる予算の確保が難しかったり、社内コンセンサスを取るハードルが高く人材育成の改善に着手しずらいといったケースも多く見られます。

セールスイネーブルメントによって実際の営業活動に即した学習プログラムを社内提供できれば、再現性・実効性のある人材育成が実現する可能性が高くなります。

『現場に対応できる即戦力』が育成しやすくなれば、成果向上のスピードにも良い影響が期待できるでしょう。

施策の最適化ができる

SFAやCRM、MAなどのITツールを用いてセールスイネーブルメントを行うことで、蓄積された顧客データを活用した最適な営業施策・戦略が実行できるようになります。

またセールスイネーブルメントでは、施策を行ったあとにフィードバックを行い、問題点の改善・実施・評価を繰り返す体制を構築します。

これにより“常に目的に沿った結果の出る施策”が実行でき、継続的な成果向上も期待できるでしょう。

目標市場での競争優位の獲得

セールスイネーブルメントに取り組むと、市場における競争優位性を確保しやすくなります。

競合と同じような商品・サービスがあった場合、契約(購買)の決め手となるのは「アプローチの内容と質」であることが多いです。

データを活用した営業プロセスの仕組み化、営業スキルの標準化といったセールスイネーブルメントを行えば、常に顧客に対し“質の高いアプローチ”ができるようになります。

質の高いアプローチは顧客獲得率の向上にもつながります。またツールに蓄積したデータを分析すれば、競合が参入していないマーケット、ターゲット層などを発見できる可能性もあるでしょう。

セールスイネーブルメントの成功事例

ここからは、セールスイネーブルメントの成功事例をご紹介します。

・Sansan

名刺管理を起点とした営業DXサービスを提供する「Sansan株式会社」では、日本においていち早くセールスイネーブルメントに取り組みを行った企業として有名です。

Sansaではセールスイネーブルメントの結果、採用から人材開発に至るまで、施策のPDCAを回せるようになりました。

Sansanでは事業成長を遂げた2015年頃、営業対象の拡大に際し人手が不足していました。そこで、従来の部署から人員を異動させるなどして対応していましたが、新メンバーのオンボーディングがうまくいかず、“営業スタッフの生産性低下”が大きな課題となっていたのです。

そこでSansanでは「人材開発の強化」を目的にセールスイネーブルメントチームを立ち上げます。現場社員20名にもヒアリングを行いつつ、課題や理想のギャップを洗い出しました。

その結果、営業における「戦略」「オペレーション」「トレーニング」「HRM」の4つの課題が浮かび上がったのです。

そこからは急務であった人員不足の解消として、面接基準の明確化や面接官トレーニングなどを実施し、採用数を約8倍まで増やすことに成功します。

さらに、入社後半年間のオンボーディングプログラムの作成、SFAを活用した営業プロセスの定義・管理を実施。

7つの営業プロセスそれぞれに「このフェーズでの典型的な状況」「やるべきこと」を可視化したことで、新しいスタッフでも何をすべきかがわかりやすくなりました。加えて、失注につながる過程の可視化、改善点の明確化にもつながっています。

・株式会社リスキル

株式会社リスキルは、35年以上にわたって「社会人教育」に関する事業を展開する企業です。

同社ではCRMツールを活用してセールスイネーブルメントへ取り組み、昨対比15%の売上高アップを達成しました。

株式会社リスキルでは、収集したリードの情報をCRMへインポートし、営業プロセスの設計を行いました。これにより「1回目のアプローチで商談化できなければ、3日後に再度アプローチし、それもダメなら1週間後にふたたびアプローチをする」といった『追いかけ営業』の仕組みを作ります。

さらにアポイント獲得後はリスキルが独自に設定したステージごとに商談を管理し、受注に至るまでの過程を徹底して可視化しました。結果、業務を効率的に進められるようになったのです。

またリスキルでは、CRMの機能を活用して担当者ごとの売上金額、昨対比売上、リード獲得経路ごとの売上額などのレポートも積極的に作成。これらレポートは営業活動の推進、および経営の意思決定に活用されています。

セールスイネーブルメントへ取り組む手順

セールスイネーブルメントには、どのような手順で取り組んでいけばよいのでしょうか。

営業データの収集・管理

セールスイネーブルメントの仕組みを構築するためには、SFA・CRMなどのツールを用いて「営業データの収集」を行う必要があります。

日々の営業活動で得られる営業活動の記録、顧客データなどをSFA・CRMなどで蓄積していき、チーム内で可視化・共有したり、マネジメント層がリアルタイムで管理できる環境を整えましょう。

特にハイパフォーマーの営業手法については言語化し、営業フローに取り込めるようにしておくことが重要です。

セールスイネーブルメント構築人材のアサイン

セールスイネーブルメントの構築には専任の人材が必要です。データ収集と同じタイミングで、兼任または専任でセールスイネーブルメントの設計・運用ができる人材をアサインしましょう。

またセールスイネーブルメント人材については、実践的な営業ノウハウやロールプレイなどの「現場で役立つコンテンツ」を提供してくれる人材が望ましいです。現場社員にセールスイネーブルメントの有用性、必要性を実感してもらいやすくなり、定着につながります。

トレーニングプログラムの開発・提供

営業部門においての「課題」を解決できるトレーニングプログラムを開発します。

ハイパフォーマーの営業手法や失敗例など蓄積したデータを分析し、全員に活かせるトレーニングプログラムを開発していきましょう。

トレーニングプログラムの内容は企業規模や営業指標によっても変わってくるため、自社に合った内容かどうか都度確認しながら開発を進めていきます。

開発が完了したら、KPIを設定したうえでトレーニングプログラムを実行しましょう。

成果の測定・検証

トレーニングプログラムを実施したら、実施前後でどれぐらいの成果があったのかを検証しましょう。この検証結果はデータとして蓄積し、可視化することが大切です。

この時点で判明した課題・修正点があれば、改善策を打ち出します。改善策は次回のトレーニングプログラムに盛り込み、また効果検証・課題の発見・改善……というサイクルで、セールスイネーブルメントを進めていきましょう。

セールスイネーブルメントの注意点

セールスイネーブルメントへ取り組む際には注意点もあります。

現場の業務・作業負担が増える

セールスイネーブルメントを実施するにはSFAやCRMなどのツールが必須となります。ツールにデータを蓄積していくことで、分析や施策への反映ができることがその理由です。

しかし、新しいツールを導入することで業務フローの変更が生じたり、必要な項目の決定などの“定義づけ”が出来ていなかったりすると、結果として入力する側(営業担当者)の負担が増えてしまいます。

現場にとって負担感を覚えやすい状況では、セールスイネーブルメントがうまくいかなくなる可能性があるでしょう。

セールスイネーブルメントを成功させるには、あらかじめ現場スタッフへ「セールスイネーブルメントの目的や効果、どのような作業が増えるのか」を伝えたうえでツールを導入するようにしましょう。

いきなりツールを導入することが難しいようならば、段階的な導入も検討するのも1つの方法です。

定着までに時間が必要

セールスイネーブルメントではPDCAを回しながら施策を繰り返し行う必要があります。

業務フローが変化することにより、戸惑いなどが生まれることもあるため、時間をかけて運用を繰り返さないと定着しない点にも注意しましょう。

さらに、取り組みをスタートしても成果がすぐに現れるとは限りません。よってセールスイネーブルメントを実施する際は、長期的な視点で取り組むことが重要です。

ツール導入のコストがかかる

SFAやCRMといったツールを導入するには、ツールの初期費用、および毎月のランニングコストだけではなく、ツールを扱う専門人材の確保についてもコストがかかることにも注意が必要です。

SFA/CRMの導入を検討する際は、あらかじめ初期費用、ランニングコスト、専門人材の人件費などをそれぞれ試算したうえで予算を組み、そこから予算に合ったツール選定を行いましょう。

セールスイネーブルメントを成功させるには?

最後に、セールスイネーブルメントを成功させるポイントをご紹介します。

効果的なITツールの活用

セールスイネーブルメントを成功させるには、効果的なITツールを活用することが重要です。

たとえば「HubSpot」は、セールスイネーブルメントに役立つツールの一つとして挙げられます。

HubSpotを活用することで、顧客データや営業活動のデータを一元管理することができるためセールスイネーブルメントを効率的に進めることが可能です。

更に、無料プランも提供されており、自社の運用にフィットするか確認しながら導入を進めていける点も大きな魅力です。

また、SFAやCRMのほかには、セールスイネーブルメントに特化した専門ツールもあります。

これらツールを活用して効率よく運用することで、セールスイネーブルメントの成功確率を高められます。

コンサルタントや支援サービスを活用する

セールスイネーブルメントを成功させるには専任人材を確保し、中長期的に実践・改善を繰り返していくことが大切です。

しかし、社内に知識を持った人材がいない、そもそも人員不足で手が回らないなど、何らかの事情で専任人材が確保できないケースがあります。このような場合は、外部のコンサルタントや支援サービスを活用するのも有効です。

コンサルタントや支援サービスへ依頼する場合は、SFAやCRMといったツールの導入から現場での運用に至るまで、包括的かつ伴走型の支援ができる業者をおすすめします。

これにより、セールスイネーブルメントの実践経験がない企業でも成功の可能性が高まるでしょう。

まとめ

今回はセールスイネーブルメントの概要や注目される背景、メリットや成功事例をご紹介しました。さらに、取り組みの手順や注意点、成功のポイントについても解説しました。

セールスイネーブルメントに成功すれば、「営業スタッフ全体が売れる仕組み」を構築できます。営業プロセスの最適化や優秀な人材育成プログラムの仕組み化が実現すれば、目先ではなく中長期的な成果の向上が期待できます。

ただし、セールスイネーブルメントの必要性、および使用するITツールを自社の運用・ビジネス環境にフィットさせるには、『セールス・マーケティングに関する知識』が必要不可欠です。

アンドデジタルでは、ツール導入前のセールスマーケティング戦略の立案・設計からデータの活用・営業プロセスの改善アドバイスまで、伴走型のサポートを行っております。

「セールスマーケティング戦略から練り直したい」

「どんなツールを使えばいいか分からない」

 「蓄積データをどうやってセールスイネーブルメントに活かせばいいのか」

このようなお悩みがありましたら、ぜひアンドデジタルまでご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事がセールスイネーブルメントについてお悩みの方のお役に立てれば幸いです。